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産みの母と育ての母

 3月5日に生まれた元気な男の子。母さんが好きで好きで、たまらない。お乳をたっぷり飲んだ後は、まとわりついて甘えたり、母さんのそばでピョンピョン跳ねたり。母さんはどっしり構え、子馬の好きにさせている。見ているこちらまで幸福な気持ちにしてくれる、ほほえましい親子である。

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  さて、馬を見なれているみなさんは、もうお気づきだと思う。母馬の小がらなからだ、短くて太い脚。そう、サラブレッドではないんです。ハフリンガーという品種のポニーだそう。でも、子馬はサラブレッドの子。つまり、乳母さんである。
 生産牧場にとって、乳母馬はなくてはならない存在だ。お産の後、何らかの事情で母馬が子馬を育てられなくなった場合に、かわりに授乳をし世話をしてもらう。育ての母になってもらうのだ。
 今回、乳母馬に来てもらったのには、こういうわけがある。
 子馬の産みの母はウォーターラボ(子馬の父はルーラーシップ)。3月5日、初めてのお産だったが、問題なく落ち着いてこなした。

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初産をスムーズにこなし、わが子を慈しむ母(2020/3/5撮影)

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母さんによく似た男の子(2020/3/5撮影)

 出産の翌朝、私は放牧している親子を見ていた。しかし、母馬が動いてしまい、子馬がなかなかお乳を飲めないようだった。牧場の方が来て、母馬を軽く押さえていると、子馬は安心してお乳を飲み始めた。おっぱいが張っているわけでもないので、授乳はできているようだ。たまたまだったのだろう。

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授乳を拒否しているのではなくて、ほっとした(2020/3/6撮影)

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子馬はお腹も満たされ、母のそばで安心しきっている(2020/3/6撮影)

 翌3日目の朝は、ちゃんと授乳しているところを見せてくれた。子馬は、母馬のまわりを元気にグルグル走り回っている。とても愛情深い親子で、私にはよいモデルさんだった。

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私の不安は杞憂に終わり、仲むつまじい様子を撮影できた(2020/3/7撮影)

 4日目も授乳を確認。ますます元気に走る子馬。母馬は少し過保護ぎみに、走るのを止めようとするしぐさを見せていた。でも、今までもこのような母馬を見てきたし、何も珍しいことではない。

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母さん大好き! 表情豊かな愛らしい子馬(2020/3/8撮影)

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せわしない子馬の動きに、母は次第にお疲れぎみに…?(2020/3/8撮影)

 その夜、母馬は豹変し、子馬を虐待したという。
 何が原因なのか、さっぱりわからない。しいていえば、一昨年見た同様の母馬もそうだったのだが、やや過保護ぎみだろうか。その残念な経験があったので、牧場の方は監視カメラで異変を察知し、すぐ駆けつけたという。おかげで子馬は無事だった。
 それから乳母馬が来るまでは、人の手で2、3時間おきのミルクやり。子馬を1頭きりで放牧すると、人の姿を見て追いかけ、いなくなると大騒ぎして大変だったらしい。

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乳母の到着までは人間が母親がわり(2020/3/9撮影)

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牧場のみなさんが、かわるがわる相手をしていた(2020/3/11撮影)

 3月12日、やっと乳母馬がやって来た。夕方、私がのぞきに行くと、もう本当の親子のようだった。翌13日以降は、冒頭の写真のとおりである。喜びを爆発させ、何の疑いもなく甘える子馬を見ていると、乳母馬に感謝の気持ちでいっぱいになった。
 それにしても、なぜ母馬は豹変してしまったのだろうか。子育てのストレス? 気持ちを聞いてあげられないのが残念でならない。来年こそは、本当のお母さんになれますように。そして、波乱の生後1週間を乗り越えたウォーターラボ20が、元気に育ちますように。

3月31日 内藤律子

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たくましく育て! 尾花栗毛の母さん、お願いしますね(2020/3/17撮影)

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