Ritsuko
Naito
母さん、認めてください
お産のシーズンも、そろそろ終わりに近づき、日高の牧場ではあちこちで、子馬たちの戦いが始まっています。
初めて出て行く外の世界、初めて接する母親以外の馬たち。大きな瞬間の連続で、身体がいくつあっても足りません。被写体を絞って重点的に撮っていかないと、作品はできない。そう思いながらも、せっかく撮らせていただいているので、みんなの成長を見届けたい。あっちもこっちもと、心がはやる毎日です。
4月のダイアリーに書いた、新しい母さんを得たウォーターラボ20にも、新たな段階が訪れました。その後のラボの様子をお届けします。
3月5日生まれの男の子。父はルーラーシップ(2020/3/29撮影)
ハフリンガー(ポニー)のやさしい母さんの愛情に包まれ、のびのびと育つラボ。そろそろ友達が欲しくなってきて、牧場の方にちょっかいをかけては怒られたり、私に向かってきたりしていました。
「遊ぼーよ」全身で誘う、やんちゃ坊主(以下4/10撮影)
「そのまま! 人に向かって立ち上がってはだめだよ」
しおらしく聞いています
そして、4月18日。いよいよ、もう一組の親子と合流することになりました。お相手は、プエルトプリンセサ親子。初産を果たしたばかりの新米母さんと、男の子(父はディスクリートキャット)のペアです。
ラボは、自分のいるパドックに連れられてきた親子に興味津々。様子をうかがいながら、出迎えに近づくと…。
(4/18撮影)
プエルト母さんの怖い顔が、たちまち飛んできました。
それでも、友達になりたいラボはあきらめません。もう一度、おそるおそるトライ。
しかし、プエルト母さんも必死です。わが子に近づく怪しいやつは、たとえ子馬であろうと容赦しません。
ラボはたまらず、母さんの元へ逃げ帰りました。
ラボを追い、プエルト母さんもやってきました。ラボの母さんは少しも慌てず、盾になりながら上手に回避。さすがベテラン、お見事です。
こんな調子で、ラボとプエルト母さんの攻防は、くる日もくる日も続きました。ラボはへっぴり腰ながら、何度怒られても親子の周りをうろうろ。子馬どうしは隙あらば遊ぼうとするのですが、プエルト母さんがすぐ割って入ってきます。ラボは、なかなか母さんに認めてもらえません。
ちょうど1週間目の4月25日。ラボがプエルトに、からんでいきました。
右・ラボ、左・プエルト(以下4/25撮影)
いつものように母さんのところへ逃げるプエルト、追いかけるラボ。
さあ、プエルト母さんの怖い顔が飛んでくるぞ…。
おや? プエルト母さん、動きません。子どもたちには目もくれずに、黙々と草を食べています。とうとうラボは、息子の友達として認められたみたいです。
2頭の子馬が晴れて友達になれたところで、2回戦の始まり。今度はプエルトの攻撃の番です。ダッシュをつけて…。
右・プエルト、左・ラボ
ラボの口が「降参」と言っています。からだは小さいプエルトですが、度胸はなかなかのものです。誇らしげな顔をして、母さんに勝利を告げに走りました。
こういうドラマが毎日のように繰り広げられるのですから、撮りたいものがありすぎです。これからの桜のシーズンも、楽しみでしかたありません。
ただ、この時期は、パドックの中に入り、子馬の近くで撮影させてもらっている私も、心して接しています。でないと、ラボがプエルト母さんにされたように、母馬に威かくされてしまいます。母馬にとっては、自分の子を守るための自然な行動で、こちらが慎重に動くほかありません。
母馬の性格をしっかりと把握し、こちらの存在を認めてもらってから、私の撮影は始まります。常日頃から協力いただいている牧場に、感謝の気持ちでいっぱいです。
5月1日 内藤律子